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千北恵美:彼女の抱える不完全な世界は
セッティングを終えて、ギターを抱え、千北恵美はライブのスタートを暗いステージで待つ。
所在無げに。少し困ったような顔で。
明かりが落とされ、彼女はギターを持ってマイクへ向かう。
声を放つ。空気が変わった。
仄暗い闇の中から現れる歌声。
70年代のアンダーグランドを感じさせる湿り気のある声。地下室のメロディ。
まだまだカバーが多いようだが、存在感と歌声の威力と、なにしろ顔が素晴らしい。
闇を射抜くその視線が素晴らしい。
力強さとはまた違う、こうあらねば死んでしまうのでは?と思わせる迫力。
千北恵美は歌に裸身をさらけ出す女優のようだ。
千北恵美:オリジナルの美しさ、すこしコミカル。
喋りが苦手だと言っていたけど、なかなか楽しいMC。くしゃくしゃに笑う笑顔。とても可愛らしい。
でもそれが一旦歌に入ると、瞳を閉じることなく言い放つ。
「私の心をつかんだくせに、そのままで済むと思うなよ」
鋭さと、過剰な歌い回しをすこしだけコミカルに演じることもできる。
女の子たちに人気が出るんじゃないだろうか?そのルックスと歌声は、痛みと共鳴しながらも、強く美しく立つ。
グランジロックなムードと、テント芝居の女優のムード。さらに針金のような体を持つ千北恵美は、シンプルな情熱をたぎらせる。
発火点ギリギリの歌を歌う。
千北恵美:嘘をつく痛み、嘘をつかれる痛み。
終盤に歌われたオリジナル曲は、「どうしていいかわからない。なんて嘘。本当は知ってる」と歌われる。
途方に暮れている時にも、誰かの助けを求めてる時も、心の奥では「どうすればいいか」がわかってる。でも傷つきたくないから知らないふりをする。
そうやって嘘は少しずつたまっていき、足がようやく届くか?というプールに浸かっているかのように息苦しくなる。嘘に溺れそうになる。
嘘は自分を柔らかく殺していく。
嘘をつく自分が嫌いでも、やっぱり嘘はつくし、それを止めることなんてできない。
一見「絶望」にも似た歌なんだけど、彼女が歌うと、暗い地下室にほのかに漏れる光の帯のようにゆらゆらと希望が見える。
目を凝らさないと見えないけれど、希望は確かにある。
千北恵美:オリジナル作品に期待する
彼女は多分、曲を量産していくタイプではないかもしれない。
一つの痛み、一つの喜び、一つの悲しみから、一つづつ作品を作る作家かもしれない。
でも、それでいいと思う。
彼女がステージで歌うたびに得ることのできる「喜び」は、彼女が自分で手を伸ばし、つまさき立ち、もぎとったものだ。
悩み多き、生傷の絶えない彼女の分身が、歌なんだ。
何も変わらずにこのまま、喜びと痛みを感じさせてほしい。
千北恵美が体を軋ませるごとに、歌が生まれるとしたなら、僕らはそれを待つしかない。
千北恵美:ミニインタビュー
最初の音楽体験は、ダンススクールです。
同年代の女の子たちが歌って踊る。沖縄アクターズとかが流行っていて。
私もオーディション受けて、ステージに立ってました。楽しかった!とにかく楽しかったです。
ギターは弾き始めて、一度は挫折しちゃって。
うまくできないのに、不完全なままで人前に出すなんてできないし、いけないことだとずっと思ってました。
だから自分はまだダメだと。
自分に自信がないから、ずっとそのまま。
でもエンタメに縁をいただいて出るようになりました。
最初はもう何をやったか覚えてないくらいダメで。
世界一ダメだと思ってしまうくらいでした。
今でも自信はないです。でも歌う時は世界一うまいんだ!と思い込んでやってます。
でも終わったらやっぱり世界一ダメだったって思う(笑)
ステージの楽しみを知っちゃたから、打ちのめされてもまた、ステージに上がるんです。
完成形じゃなくても、途中でも、やっぱりやったほうがいいなあと今では思います。
ダメな自分を踏み台にして少しづつでも上手くなれたら。
やらないよりは、やるほうがいい。
いろいろ大変かもしれないけど。
私、今、楽しいから。
おしゃべりができなくて、学校では友達と上手くやれなかった。
でもダンススクールで歌って踊ったりすることは楽しくて、できたんです。
コンプレックスが消える瞬間なのかも、ステージは。
すぐ頭がいっぱいになって、考えられなくなって、怖くなる。
でもギターがあると違うんです。
最近、ようやくギターが自分の一部な気がします。
プレッシャーもギターと半分こできる(笑)親友みたい。
こんなになりたくないな。意地悪とか言いたくないな。嘘はつきたくないな。そう思ってるけど、やっぱりそうなっちゃう。
つらくて苦しい。でも、それが私だし。
受け入れよう。と、思う。
学校で上手く喋れない時、ハキハキしてる友達を見て「あれが普通で、自分は劣ってる」ってずっと思ってて。私は意見を言わず、友達や周りの顔色をうかがって、話を合わせたり。でもそんな自分が嫌で苦しんだり。
あの子達のように普通になりたい、と思ってました。
今の自分を、あの頃の知り合いが見たらびっくりすると思う(笑)なんだよ!ギター持って歌ってるよ!え〜〜!?って(笑)
今日もいろいろ反省して泣くかもしれないけど、また次もステージで歌を歌いたいと思います。