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渕ノ上愛実:空間をぶった切るピアノ
彼女は大きな波のよう。
大きな岩にぶつかって、飛び散る。
波は去り、またやってくる。
ぶつかることでしか、ありのままをぶつけるしかないかのように。彼女は何度もぶつかる。
ありったけの力と誠意で。
心地のいいごまかしが蔓延するこの世界を切る。
自分もその世界の住人だから、彼女自体も傷つくだろうけど。
それでも渕ノ上愛実は明日を信じてるし、希望を忘れない。
希望が見えにくくなっているからこそ、信じたいと願う。
全力で立ち向かい、倒れる。
倒れてもまた立ち上がる。
勝つまでが戦い。そう信じてるのかもしれない。
嘘をつくかわりに、渕ノ上愛実はピアノを弾く。
渕ノ上愛実:雨のしずくのようなピアノ
一曲一曲がナギとピーク。ドラマティックに展開する。
嵐が過ぎた海辺の小屋には、小さな雨粒が心地の良い音を立てる。
優しく、体を撫でるようなピアノ。
マイクを通さない肉声が一番素晴らしい。
説得力、なんて言いうと高圧的だけど。
喉を震わせて生まれた声が、空気を震わせて、鼓膜を震わせて、心を震わせる。
そのリアル感。力強く優しい。
生活感とは違う「リアル」
日常は、毎日は、やっぱりいいものだ。
優しさが真ん中にあるからこそ、激しくぶつかるんだろう。
どんなに大きな衝撃音でも、真にある優しさは消えない。
渕ノ上愛実:ウィットとユーモアを忘れない歌詞
イラつくこともたくさんあるよね。
そんな時はまあ、ちょっと笑ってみようか。
心が軽くなるかもしれないしね。
頭にくることがあったら、それ、持ってライブにおいでよ。
どーんと私が取っ払ってやる(笑)
シニカルなだけでは伝わらないものも、彼女の「歌い手としてのキャラクター」があれば伝わる。
おもちゃ箱のような彼女が歌うから、伝わるのかも。
渕ノ上愛実:彼女はいってしまう。
初めて見たのに、もう見ることはできない。
渕ノ上愛実はシンガーをやめるから。
この日ライブは福岡でのラストライブ。
そしてすべてのラス前のライブ。
彼女の歌に癒されたり殴られたりした人たちが集まってきた。
もう彼女はいなくなる。
彼女の代わりを探すのもいいだろうし、自分の抱えるべき現実をきちんと抱えて歩き出すのもいいだろう。
渕ノ上愛実は愛されていた。
みんなに愛されていた。
この先日常が、世界が、この国がどうなろうとも。
2016年7月12日。
大名シャングリラが愛情で包まれたことだけは事実で。
それを目撃できた人は幸せだ。
この国に登る太陽のこと歌う。
まだかすかに信じてるこの国のことを歌う。
そんなシンガーソングライターがいなくなるのは、本当にさみしいものだ。
渕ノ上愛実【ミニンタビュー:音楽で食っていくためにやめる】
本当は老後に「ピアノの先生」になろうと思ってたんです。
でも、今チャンスが来た。
二つのことを同時にできるほど器用じゃないので、シンガーソングライターはやめる。
音楽で生きていきたいっていうのが私の夢だから。
その夢を叶えるために決断したんです。
やめるって決めてから、いろんな人に「愛されてるんだ」と感じました。今まで感じられなかったのか〜!って思いますけど(笑)
歌で伝えたいことは一曲の中で一個。それをテーマに据えてグイグイ押す。そういうやり方で書いてきたし、それしかできない(笑)
テクニックでうまいことやるんじゃなくて正面から。
素材をそのまんま、出す。
シンガーソングライターとして言いたいこと、伝えたいことは出し切った気がします。腹の底から。
ライブっていうのは自分のために始めるもの。
今は出尽くしたけど、もしかしたらまた歌いたい事が溜まってくるかもしれない。
そんな時はやっぱり歌を作るでしょうね。
でもライブはやらない。
不器用だから一個しか本気でやれない。
今はライブ。
それ以外は無理。
あと一回、ラストライブを全力でやります。
そのあとは全力でピアノの先生をやる。
小さな頃は嫌いだったのに、8歳の頃からピアノの発表会が好きで。
人前で弾いて、褒められるのが好きで(笑)
だからそういう楽しみをピアノの先生になって教えてあげたい。
きっと真っすぐにしか当たれないから、生徒さんとめちゃくちゃ喧嘩したりするかもだけど。きっと仲直りもする(笑)
私は、信じてるんです。この国をまだ。
私の未来を信じてる。